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悲 (マリノとシルヴァ)


「悲しむことなどやめることだな」

冷たい声にマリノは思わず信じられないものを見るような目でシルヴァを見た。
その瞳はいつも通り、冷静さが滲み出ていて感情の揺らぎは微塵も感じられない。
こんなときまで冷静でいられる、誰かが死んだときですら眉一つ動かさずにいるこの女性が初めて憎いと思って、マリノは目を伏せた。
視線の先にいるのは、自分が手当をして、助けられなかった患者だ。
閉じた瞳はもう二度と開くことはないだろう。
まだ年若い少年だった。
おそらくシュン君についてきた闘技奴隷だったのだろう。
死に逝くにはまだ早過ぎた、とマリノは思う。
そうしている間に、シルヴァが男手を連れてきた。聞けば、少年を移すのだそうだ。共同墓地の方へ、ベルクートさんは少年を抱えあげて目を閉じた。
何かに祈っているのだろうか、口が僅かに動く。

「早く運んでくれ。他にも多くの患者がいる。身動きがとれなくなるのはごめんだよ」

言い放つシルヴァに何も言わずにベルクートは頷いた。
そのまま場所をあける。
そしてそこに運ばれて来る負傷者。

***

「疲れただろう」

温かな紅茶の入ったマグカップをひとつ、シルヴァがこちらに差し出して、マリノはようやく自分に注いでくれたのだと気付き、受け取った。
あたたかなそれは安心を与える温度で、たくさんの死を見届けた今日の疲れ果てたこころに染み込んだ。
無心にただ治療の手伝いをしていた気持ちが息を吹き返して、どうしても昼間の疑問が首をもたげたマリノは覚悟して口にしてみた。

「シルヴァ先生は、どうしてあんなに割り切れるんですか」

助からないと、切り捨てられるんですか。あんなにあの子は助けてと訴えて居たのに。
なにもできなくてくやしくて、なのに先生はなんでもないみたいに言い切りましたよね。
そしてどうして

「どうして、悲しむな、と」

マリノの言葉は途切れ、しばらくの沈黙。
紅茶の飲み干してカップをテーブルにおいたシルヴァは、ふぅ、と息をついて言った。

「悲しんでいては、身が持たないだろう」

ここは戦場で、戦がある以上ひとは死ぬ。若者でさえ、年寄りでさえ、女子供も選ばずに、命をさらっていく。理不尽に、あまりにも簡単に、命は摘まれてしまう。

「さぁ、あんたはもう宿にお帰り」

待っているひとが多くいるはずだ。私は患者の様子をもう一度見回ってくる、と身を翻すシルヴァの白衣の裾をとらえながらマリノは思う。
一体このひとはいくつの死と対面してきたのだろう、と。

疑問を口に出すのは憚られた。
マリノは「ごちそうさまでした」とカップをおいて部屋を後にする。
自分のいるべきところへ帰るために。


(久しぶりに更新。幻水5。マリノさんとシルヴァ先生。非戦闘員も補佐にはまわっていそうという妄想から。)



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2006.04.11 | | Comments(0) | Trackback(0) | 幻水

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