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その瞳が秘めた覚悟を物語る (カイル)


「それじゃあ本当に、」

あなたは王子から離れてしまうのか、とカイルはぼんやり思った。
アメジストにきらめく瞳に宿るのは強固なる意思で、きっと王族にその目力は伝わってきたのだろう。
アルシュタート様と同じ様な威光に満ちたその姿はかつてとは異なっていて。
銀色の髪を掻きあげる仕草も以前と変わらぬはずなのにカイルにはどこか芝居じみて見えた。

「サイアリーズ様」

(貴方の行動は、きっと正しくて間違えている)

「きっと王子は、貴方の帰りを待っています」

届かぬと知りながら踵を返す後姿に祈った。


(その瞳が秘めた覚悟を物語る。カイル→サイアリーズ。)

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2006.05.31 | | Comments(3) | Trackback(0) | 幻水

もう涙は出ない (キリルと誰か)


あの頃の僕は酷く弱くて馬鹿みたいに人間染みていた。うしなった苦しみ取り戻せない怖さ、なくした痛みが辛くて、泣いて泣き続けた。この上ないくらい泣き叫んでやがて涙は枯れ果てた。だからもう涙は流れない。悲しいも苦しいも感じない。感じられない。僕は。


「かなしいなら泣けばいい。悔しいなら声を張り上げて。感情を隠すことは誇れることじゃない。人間らしさをみせつけてやればいい。君には、」

(僕の頭を撫でる手は変わらず優しく、熱かった。)

「まだ流れる涙があるのだから」

顔をあげると疲れたような微笑みをうかべながら黒髪の青年は変わらず頭を撫でてくれている。
何故かその笑みに惹かれた。
人間の仕草と呼ぶのはそぐわない。ふさわしくない彼の細められた、渇いた瞳に魅せられた。



2006.05.29 | | Comments(0) | Trackback(0) | 幻水

宙 (ロイと王子)


「宇宙ってさ、」
「宇宙?」

「そう、宇宙。この世界、大陸とかはひとつの星で、そらの彼方にはたくさんの星があって、全部ひっくるめて宇宙って呼ぶらしいんだ。誰が言ってたかは忘れたけど。もしかしたら本に書いてあったのかも。とにかく、曖昧だけどそう呼ぶらしい。宇宙は真っ黒で、星達はその中で、きらきらと輝いている。その何万何億それ以上の輝きの、たったひとつの星に僕達の暮らす、ファレナだとか…群島諸国だとか北のハルモニアや赤月帝国だとか、全部ひっくるめた、世界と称されるものがあって。世界には海や森、山や河といった自然があって、その中に国があって町や村があって、数えきれない数の生き物が存在して、何かをしている」
「壮大だな。途方もない話だ」
「そう、途方もない話だよ。それを考えたら自分が凄くちっぽけに見えてきて、ここで何かをしてもなにもかわらないんじゃないか、とか。宇宙から見たら僕達にとってこんなに大きな影響を及ぼすこの争いすら塵の如きものなんだ、とか。ならば、こんな小さな存在の僕達に何ができるんだろう、とか。つい、弱気になる」
「………」
「?」
「あのなぁ、それは弱気じゃなくて卑屈ってんだ」
「ひくつ?」
「そう。俺はうまく言えないけど、生きている以上きっとすべてのものに意味があると思うぜ。大きい、小さいは別として。ひとつが周りに与える影響力って、結構馬鹿にできないんだよ。過去であれ未来であれ今であれ、極端な話、こうやって俺とお前が話をしていることだって、そうだろ?」
「…うん。そうだね」

うじうじすんなよ、ロイは呆れたように僕を見る。いつも通り金色の目を細めて笑うその姿は僕と似て非なるものだった。


「じゃあ僕は少しでも、多くの影響を与えられるひとになりたい」


富とか名誉とかそんなものいらないから。

ぽそり、呟いた言葉がロイに届いたかどうかはわからないけれど、きっと気持ちは伝わってた。



(幻水5。微妙に修正。王子とロイ君。途方もないはなし)

2006.05.24 | | Comments(0) | Trackback(0) | 幻水

白 (ロイとリオン)


部屋に入ってきた俺と、入れ替わりで怪我人の手当ての為に出ていったシルヴァ先生。それを見てリオンは辛うじて温もりを宿している紺色の双眸をドアの方、俺に向けた。
白すぎる血色の無い手がこちらに伸びて、俺は近寄ってそれをおずおずと掴んだ。
リオンの手は想像していたよりもずっと冷たくて、思わずはなしそうになったけれどはなしたらもう二度と掴めなくなるんじゃないかと怖くなって少し力をこめて握る。

「ロイ、君」

どんなに弱っていても一目でいつものように変装を見抜くリオン。
その行動に、やっぱりこいつは王子の護衛役なんだと、心底あいつのために生きているんだと実感する。

「そんな顔、しなくていいです」
「あぁ」

手を離し、リオンの白い手は俺の頬に触れる。

「大丈夫、ですから」

情けない顔をしているつもりは無かった。それでもリオンは簡単に暴いてしまう。

「もうすぐあいつ、帰ってくるだろうからさ」
「えぇ」

それまでゆっくり休んでろ。
大丈夫なんだろ、と笑いかけた俺に頷きながら、リオンはまた混濁の波に落ちて行く。



(幻水5。ロイ→リオン。つれていかないで、と必死に祈った。)

2006.05.23 | | Comments(0) | Trackback(0) | 幻水

壊れて (ピオニーとディスト)

「今更、何をいうのかと思えば」

疲れきったような曖昧な嘲笑をディストは浮かべる。
誰に向けてでもない、ディスト自身に向けた壊れた感情に、ピオニーは内心舌打ちをした。

「あのころになどもどれない」
「サフィール」
「私たちが追いかけていたものは幻想で、何をしてももうネビリム先生は帰ってこない」
「サフィール!」

叫ぶように台詞を止めるピオニーに視線を向けたディストは嘲笑を浮かべたまま続ける。

「戻れない!いくら貴方が帝王とて所詮は人の子!時間を操る術など持たないだろう!持たない以上、貴方は一生私の願いを叶えられない!」

狂ったように、否。きっともう狂っている彼は何度も何度も同じことを繰り返し過去にすがる。
大人になることを拒むこどものように純粋で一途なその願い。

だけど、そんなのは叶えられない。
自分にも、他の誰にも。

「サフィール」

ピオニーが掴んだディストの腕は氷のように冷たくて、血など一滴も通っていないみたいに白かった。
あの思い出の埋められた冷たい白のごとく。

そして何もうつさない、現実を見つめようとしない紫の瞳が一瞬、憎悪をむき出しにする。
なにかを口にする前に強い力ではね除けられた。



(TOA。陛下と死神。こわれているのは世界かそれとも自分の方か)

2006.05.18 | | Comments(0) | Trackback(0) | TOA

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